高校化学では、『ヘキストワッカー法(ワッカー酸化)』として、エチレンからアセトアルデヒドの変換反応が出てきます。
『どういう機構でエチレンからアセトアルデヒドに変換されるの?』
『PdCl2やCuCl2は何のために使われているの?』
と思っている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、大学化学の知識を簡単に説明し、中高生でもわかりやすいように『ワッカー法』について、解説していきます!
大学化学の知識が不可欠!
高校化学では
『エチレンをPdCl2とCuCl2触媒のもとで酸化させると、アセトアルデヒドになる。これをヘキストワッカー法と呼ぶ』
と丸暗記します。
この反応式をまとめると、以下のようになります。

この製法はセンター試験(現:共通テスト)にも登場しているので、高校化学では必須の知識となります。
でもぱっと見だとなんでこんな反応が起こるのか、意味が分からないですよね。
この反応をしっかりと理解するに大学化学の知識が不可欠です。
ただし、3つの知識をおさえることでこの反応を理解することが出来ます!
ここからは、中高生でもわかりやすいように『なぜエチレンからアセトアルデヒドを生成できるのか』について解説していきます!
いくつかの基礎知識をおさえよう!
①『α位とβ位』とは?
まず覚えておきたいのが、構造式の命名の仕方です。
構造式の命名の仕方…?
と思う方もいるかもしれません。
が、その化合物のうちどの元素で反応が進行するのかを説明するのに、この命名法を覚えておくと便利なんですよね!
大学化学ではαやβといったギリシャ文字が登場します。
では、α位(アルファ位)やβ位(ベータ位)が何を表すかというと、
ある原子や官能基を基準にして、何番目にある炭素かを表す呼び方
を表しています。
具体例がある方が分かりやすいと思うので、以下の図はプロピオン酸を例とした時で、カルボキシ基を基準とすると下記のようになります。

すなわち、
- 基準のすぐ隣にある炭素を α位(α炭素)
- その次にある炭素を β位(β炭素)
- さらにその次を γ位(γ炭素)
ということです。
『基準から近い順に、α → β → γ → δ … と名前を付けていく』というルールあるということを覚えておきましょう!
②『βヒドリド脱離』とは?
続いて、『エチレン⇒アセトアルデヒド』の反応を理解するうえで覚えておきたいのが、『βヒドリド脱離』です。
βヒドリド脱離とは、その名の通り‘β位’の‘ヒドリド(=H–)’が‘脱離’する反応です。
先に解説した「β位」がここで登場します。
ちなみに、ヒドリドというのは水素の陰イオンH–のことです。(水素の陽イオンはプロトンと呼ばれてます)。
では、そのβヒドリド脱離の具体的な内容を説明すると、
金属に結合したアルキル基から、β位の水素(β-H)が金属へ移動し、同時にアルケンが生成する反応
となります。
と言われると少しわかりにくいですよね。
なので、こちらも具体例で考えましょう!
例として、Pd(パラジウム)にエチル基が結合した錯体を考えます。

ここで、今回着目する元素を金属元素であるPdとすると、先に解説した通り、
- Pdに直接結合している炭素が α炭素
- その隣の炭素が β炭素
となります。
この化合物では、右側のCH3の3つのHのうち1つが『β水素』です。
このβ水素がPdへ移動する反応をβ-ヒドリド脱離と呼びます。

β-ヒドリド脱離では、次の3つの変化が同時に起こります。
- β位のC–H結合が切れる
- 水素が金属M(Pdなど)へ移動して、M–H結合ができる
- α炭素とβ炭素の間に二重結合(C=C)ができる
要するに、『βヒドリド脱離反応』は、金属を介してα炭素とβ炭素の間に二重結合が形成される反応になります。
③『ケト-エノール互変異性』とは?
最後に、ケト-エノール互変異性についてです。
これは、もしかしたら高校化学でも少し聞いたことがあるかもしれません!
ケトエノール互変異性とは、
ケト型とエノール型が、水素原子と二重結合の位置が変わることで互いに変換し合う現象
を指します。
以下の図は、アセトアルデヒドの例です。

まず、
ケト型…カルボニル基( C=O) を持つ構造
エノール型…二重結合(C=C)とヒドロキシ基(-OH)を持つ構造
です。
上記のように、ケト型とエノール型が平衡状態で切り替わるのが、ケト-エノール互変異性ですね。
また、ケト型の方が安定なので平衡状態では多くがケト型になります。
つまり、上記の場合は、エノール型であるビニルアルコールとケト型であるアセトアルデヒドが平衡状態であり、より安定なアセトアルデヒドの状態になっています。
ワッカー法を4 Stepで理解しよう!
ここまで、
- α位とβ位
- βヒドリド脱離
- ケト-エノール互変異性
について解説してきました。
これらを理解することで、『エチレン⇒アセトアルデヒド(ワッカー法)』の反応を概ね理解することが出来ます!
この反応をざっくりまとめると、以下の4 Stepになります。
①PdCl2がエチレンに配位する
②PdCl2が配位したエチレンに、H2Oが攻撃する
③βヒドリド脱離が起こり、ビニルアルコールが生成する
④ビニルアルコールがケト-エノール互変異性によってアセトアルデヒドになる
ここからは、①~④について解説していきます!
①PdCl2がエチレンに配位する
まず、この反応の触媒としてPdCl2が使用されます。
こういった金属系の触媒は錯体を形成するときに使用されます。
今回の場合、このPdCl2にエチレンが配位した錯体が形成されます。

これがこのワッカー法の第1段階です。
②PdCl2が配位したエチレンに、H2Oが攻撃する
続いて、以下の通りにH2Oがこの錯体と反応が起こります。

Pdに配位したことでエチレンの二重結合は電子不足になり、水分子が求核攻撃できるようになります。
また、反応の過程でHClが脱離していますね。
上記の通り、『エチレン⇒アセトアルデヒド』の過程で増える酸素原子は実を言うとH2O由来であるということです。
③βヒドリド脱離が起こり、ビニルアルコールが生成する
続いて、先に説明したβヒドリド脱離が起こります。
下図の通り、②で生成した化合物におけるβ位の水素がPdへ移動した結果、C=Cが形成されてビニルアルコールが生成します。

ちなみに、上記の通りPd側はβヒドリド脱離によってH-Pd-Clという錯体になっています。
④ケト-エノール互変異性で、アセトアルデヒドが生成する
③ではビニルアルコールが生成しました。
先に説明した通り、ビニルアルコールはケト-エノール互変異性によって、アセトアルデヒドが生成されます。

以上の通り、この①~④の反応を経ることによって、エチレンがアセトアルデヒドへと変換されます。
CuCl2触媒の役割は?
この①~④を見て鋭い方は、
CuCl2が出てきていない!
と思ったのではないでしょうか?
結論から言うと、CuCl2はPd触媒を再生するのに必要です。
そもそも触媒は「反応速度を変化させるが、反応の前後で正味として消費されない物質」と定義されます。
つまり、③の段階でPdはH-Pd-Clという状態になっているので、PdCl2へ戻す必要があります。
まず、H-Pd-ClからHClが脱離して、Pd(0)が生成します(この反応はPdの酸化数が+2⇒0(=還元)してHClが脱離するので、『還元的脱離』と呼ばれます)
続いて、この発生したPd(0)は以下のような反応が起こります。
Pd(0)+2CuCl2→PdCl2+2CuCl
上記の通り、Pd(0)へCuCl2がClを与えると、PdCl2が復活します。
最初に書いたように、CuCl2はPd触媒を再生する化学種ですね。
また、CuCl2も触媒なので発生したCuClもCuCl2に再生します。
その反応式は以下の通りで、HClから供給されるClと酸素(O₂)による酸化によって再びCuCl₂へ再生されます。
2CuCl+2HCl+(1/2)O2→2CuCl2+H2O
先の『エチレン⇒アセトアルデヒド』の解説の②でHClが脱離していましたよね。
脱離したHClがここで再登場してくるのも、このワッカー法の肝と言えます!
以上の話を図にすると以下のようになります。

要するにこのような『触媒サイクル』が成り立っているため、継続して反応が起こり続けるということですね!
ここまでで登場した2つの触媒の役割をまとめると、
PdCl2…『エチレン⇒アセトアルデヒド』の反応を進行させる役割
CuCl2…Pd(0)をPd(II)へ再酸化してPd触媒を再生する役割
となります。
最後に
いかがでしたか?
エチレンからアセトアルデヒドへの変換をまとめると、以下のような反応式でした。

ただし、実際の過程ではO2によって直接酸化されているわけではありませんでしたね。
アセトアルデヒドへの変換は以下の4 Stepであり、触媒の役割は以下の通りとなります。
①PdCl2がエチレンに配位する
②PdCl2が配位したエチレンに、H2Oが攻撃する
③βヒドリド脱離が起こり、ビニルアルコールが生成する
④ビニルアルコールがケト-エノール互変異性によってアセトアルデヒドになる
PdCl2…『エチレン⇒アセトアルデヒド』の反応を進行させる役割
CuCl2…Pd(0)をPd(II)へ再酸化してPd触媒を再生する役割
高校化学段階では、基本的に丸暗記になってしまうものの、反応機構をざっくりでも理解することによって非常に覚えやすくなるはずです!
ぜひ、これらの内容をおさえてヘキストワッカー法についてしっかりと理解しましょう!
参考にしてみてくださいね!



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