大学化学でいきなり登場しますが、聞き慣れない単語である『内圏機構』と『外圏機構』。
『内圏機構と外圏機構って何が違うの?』
『どうやって見分ければいいの?』
と思っているのではないでしょうか?
内圏機構と外圏機構を理解するポイントは、
『電子がどのような経路で移動するか』
です。これさえ押さえておけば、2つの反応機構の違いを理解できます!
この記事では、大学化学の錯体化学で重要な『内圏機構』と『外圏機構』について、具体例や院試問題も交えながら基礎から分かりやすく解説していきます!
『内圏機構』と『外圏機構』の違いは?
そもそも『内圏機構』と『外圏機構』ってなんだっけと思う方も多いでしょう。
これらのワードは『錯体』×『酸化還元反応』で登場します!
前提として、酸化還元反応とは電子の授受が行われる反応でした。
(酸化剤⇒電子を受け取る、還元剤⇒電子を与える)
つまり、『内圏機構』と『外圏機構』とは、
この『電子』がどのように移動して錯体反応が起きるかを分類したもの
ということが出来ます。
では、内圏と外圏は具体的に何が違うのかというと、これらを見分けるポイントは、
『電子移動の途中で架橋配位子が存在するか否か』
で判断することが出来ます。
すなわち、
架橋配位子を介する反応…内圏反応
架橋配位子を介さない反応…外圏反応
ですね。
これらを前提として頭に入れていただき、次はこれらについて1つずつ詳しく解説していきます!
『内圏反応』とは?
先に書いた通り『内圏反応』とは、
電子移動の途中で架橋配位子を形成し、その架橋を介して電子移動が起こる反応機構
のことです。
…と言われてもわかりにくいと思うので、具体例を考えてみましょう!
今回は具体例として、以下のような[Co(NH3)5Cl]2+と[Cr(H2O)6]2+という2つの錯体が反応することを考えます。

①架橋錯体を形成する
『内圏機構』では架橋配位子が重要と書きましたが、以下のように架橋錯体が形成されます。

まず、これらの錯体同士が接近することで反応が進行します。
反応の進行時に一度H2O配位子が一つ離れ、Clがもう一方の錯体にも配位することで、
(NH3)5CoⅢ−Cl−CrⅡ(H2O)5
という架橋錯体が形成されます。
今回の場合、このCl⁻が架橋配位子となります・
②電子が移動する
続いて、錯体同士で電子移動が起こります。
最初に書いた通り、『内圏機構』は錯体同士の酸化還元反応(=電子が移動する反応)での機構なので、反応時には電子の移動が起こります。
今回の場合は、Cr2+からCo3+へe–がCl–を介して移動します。
これにより、
Co(Ⅲ)-Cl-Cr(Ⅱ)⇒Co(Ⅱ)-Cl-Cr(Ⅲ)となるので、下図のような中間体となります。

Coの酸化数:Ⅲ⇒Ⅱ (還元されている)
Crの酸化数:Ⅱ⇒Ⅲ (酸化されている)
なので、酸化数の変化からも酸化還元反応が起こっていることが分かりますね!
③架橋が切れる

最後にCl–の架橋が外れて、最初に離れたH2Oが戻り2つの錯体が形成されます。
この内圏機構によって、
[Co(NH3)5(H2O)]2+と[Cr(H2O)5Cl]2+
が形成されます。
結果としては、2つの錯体の間でX型配位子であるClとL型配位子であるH2Oが入れ替わった形ですね。
X型配位子の分だけ中心金属の形式酸化数が変化するので、今回は
Coの形式酸化数は+3から+2へ1だけ減少
Crの形式酸化数は+2から+3へ1だけ増加
となっているところもポイントですね。
このように、一度架橋錯体を形成して電子移動が起こる反応を内圏機構といいます。
『外圏機構』とは?
続いては『外圏機構』について解説していきます。
外圏機構とは、
酸化剤と還元剤が配位子を交換したり、架橋配位子を形成したりすることなく、電子だけが移動する機構
です。
最初に述べた通り、内圏機構のように『架橋配位子』が存在せずに電子が移動するのがこの外圏機構です。
こちらも言葉だけだと分かりにくいので、具体例で考えてみましょう!
外圏機構の具体例としては、以下のようなものがあります。
[Fe(CN)6]3−+[Fe(CN)6]4−⇌[Fe(CN)6]4−+[Fe(CN)6]3−
一見すると何も変わっていないように見えますが、左側のFe(III)が右側ではFe(II)になり、もう一方は逆になっています。
配位子交換や架橋配位子を形成するわけではないので、一見分かりにくいのが外圏機構の特徴とも言えそうです。
ちなみに、外圏機構における電子移動は電子のトンネル効果として説明されることが多くあります。
また、この電子の移動のしやすさ(外圏機構での反応の起こりやすさ)は再配置エネルギーによって決まります。
再配置エネルギーは単語として少し馴染みにくいですよね。
例えば、分子軌道から電子を除去したり、加えたりすると、金属-配位子間の結合長やその周囲の溶媒分子の向きも変化します。
当然、この前後では分子のエネルギーは違い、この構造変化に要するエネルギーを総じて『再配置エネルギー』と呼びます。
この再配置エネルギーが小さい=電子は移動しやすいことになるので、この場合は外圏機構の反応は起こりやすいです。
逆に言えば、再配置エネルギーが大きいと、反応速度は遅いということですね。
『外圏機構』と『再配置エネルギー』はセットで出てくるので、この機会にぜひ覚えておきましょう!
問題例
これらを踏まえて、1つ問題を解いてみましょう。
以下の問題は、2025年の東京科学大の応用科学系の院試で問われた問題です。
問題としては、[CoCl(NH3)5]2+と[Cr(H2O)6]2+の反応です。
実際の問題では問題文に『この反応は内圏機構で起こる』と記載されていますが、こちらの反応は先の解説の通り内圏機構で反応しますね。
これを踏まえて以下の①と②について解いてみてください!
①これらの中心金属の形式酸化数は何か。
②電子移動後の中間体の構造を立体化学が分かるように、また中心金属の形式酸化数を右肩に描け。
以下で①と②について解説していきます!
解答①
①は中心金属の形式酸化数を数える問題です。
d電子の数え方や金属の形式酸化数を計算する方法は、こちらの記事で解説しました。
詳しく知りたいという方は、こちらの記事も合わせてご覧ください!

上記の内容について抜粋すると、金属の形式酸化数は以下で計算することが出来ます。
X型配位子をX、L型配位子をLとして一般式を[MXaLb]c+で表す時、金属の形式酸化状態は『a+c 』として計算できる
今回の配位子において、ClはX型配位子、NH3とH2OはL型配位子です。
よって、それぞれの錯体の中心金属の形式酸化数は、
[CoCl(NH3)5]2+⇒1(X型配位子が1個)+2(価数2)=3
[Cr(H2O)6]2+⇒0(X型配位子が0個)+2(価数2)=2
となります。
解答②
まず電子が移動する前の中間体は、Cl⁻が架橋配位子になった架橋錯体です。
[(NH3)5CoIII−Cl−CrII(H2O)5]4+
それぞれの中心金属の形式酸化数は、①で計算した通りですね。
これに対し、電子が移動することを考えます。
電子が移動すると、Coは還元されて形式酸化数+3⇒+2、Crが酸化されて形式酸化数+2⇒+3となります。
したがって、電子が移動した時の中間体は下記の通りとなります。

[(NH3)5CoⅡ−Cl−CrⅢ(H2O)5]4+
書き方は難しいですが、この問題の解答のポイントとしては、
- CoとCrはどちらも八面体
- Clが両金属に配位する架橋配位子
- Coの右肩に III→II
- Crの右肩に II→III
となるように構造式を書くことです!
最後に
いかがでしたか?
今回は、『内圏機構』と『外圏機構』の違いについて解説してきました。
今回の内容をまとめると、
内圏機構:電子移動の途中で架橋配位子を形成し、その架橋を介して電子が移動する反応機構
外圏機構:架橋配位子や配位子交換を伴わず、電子だけが移動する反応機構
外圏機構では、電子移動の起こりやすさは再配置エネルギーによって大きく左右される
内圏機構では、電子移動後に配位子が移動した生成物が得られることが多い
となります。
大学院入試では、内圏機構・外圏機構の違いだけでなく、架橋錯体の構造や中心金属の形式酸化数、電子移動後の中間体を描かせる問題もよく出題されます。
今回紹介したCo–Cr系の反応は、内圏機構の代表例として頻繁に扱われるため、電子移動の流れと中間体の構造を自分で書けるようになるまで練習しておきましょう!
ぜひ、参考にしてみてくださいね!



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