【例題あり】スペクトル項記号の求め方を分かりやすく解説!

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大学化学では、原子の電子状態を表す方法として『スペクトル項』を学びます。

しかし、

『スペクトル項って何?』

『スペクトル項の求め方が分からない』

と思っている方も多いのではないでしょうか?

スペクトル項は難しそうに見えますが、

『多重度2S+1』・『全軌道角運動量L』・『全角運動量J』

の3つを理解すれば求められるようになります。

この記事では、大学化学で頻出の「スペクトル項」について、基礎から分かりやすく解説していきます!

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目次

『スペクトル項』とは?

『スペクトル項(spectroscopic term)』とは、原子やイオンの電子状態を表す記号です。

これだけ聞くと、

2p2と3d2といった『電子配置』と何が違うの?

って思いますよね。

ざっくりいうと、

電子配置 :電子がどこにいるか

スペクトル項 : 電子がどんな状態にあるか

という違いがあります。

例えば、炭素原子の価電子配置は2p2で表されます。

しかし、これはあくまでp軌道に2個の電子が入っている(=電子がどこにいるか)という情報しか得られません。

つまり、スピンが平行なのかもしくは反平行なのかは分かりません。

しかし、スペクトル項を用いることで、より詳細に電子の状態を描写できます!

実際に、2p2という電子配置には3P, 1D, 1Sといった複数の電子状態があることが分かっています。

このように、電子についてより詳細な情報を含んだのがこのスペクトル項です。

このようなスペクトル項ですが、一般には、

2S+1LJ

という形で表されます。

次はこの『2S+1』・『L』・『Jが何を表しているのかについて説明していきます!

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『スペクトル項』の表し方は?

先ほど示した通り、スペクトル項は、

2S+1LJ

のように表すことが出来ます。

具体的にこれらの『2S+1』・『L』・『Jが何を表しているのかというと、

2S+1…多重度 (電子のスピンのまとまり方)

L…全軌道角運動量 (電子の軌道運動のまとまり方)

J…全角運動量 (これらを合わせたまとまり方)

これらについて①から順に解説していきます!

①多重度

『多重度』は、電子のスピンのまとまり方について示した記号になります。

結論から言うと、多重度を算出する方法は、

①電子のスピン量子数msの組み合わせを考える

②スピン量子数の総和MSを考える

③MSより、S及び2S+1(=多重度)を算出する

3 Stepで得ることが出来ます!

まず、スピン量子数msについて、これは+1/2-1/2のいずれかをとり、例えば上向きスピン:+1/2下向きスピン:-1/2と習ったと思います。

多重度は、最初に説明したように『スピンのまとまり方』を示す記号なので、このスピン量子数が重要になります。

ここで、電子全てのスピン量子数の和をMS(=∑ms)を考えてみましょう!

つまり、例えば2つの電子の場合、

平行スピン:MS=+1/2+1/2=+1(or-1/2-1/2=-1)

反平行スピン:MS=+1/2-1/2=0

となります。

なぜ、ここでMSを算出したかというと、MSを用いることで多重度に出てくるSの値を算出することが出来るからです。

結論から言うと、MSとSの関係は次の通りとなります。

MS=-S, -S+1, …, 0, …, S-1, S

要するに、MSの最大の数がSということです。

2つの電子が平行の場合、MS=+1 or -1だったので、最大の数が+1なのでS=1となります。

反平行の場合はMS=0なので、S=0となります。

多重度:2S+1なので、S=1の時は多重度:3、S=0の時は多重度:1と算出することが出来ます。

②全軌道角運動量

続いて、全軌道角運動量について考えてみましょう!

『全軌道角運動量』は、電子の軌道運動のまとまり方について示した記号になります。

結論から言うと、全軌道角運動量を算出する方法は、

①電子の磁気量子数の組み合わせを考える

②磁気量子数の総和MLを考える

③MLより、L(=全軌道角運動量)を算出する

④全軌道角角運動量の値から記号を決める

4 Stepで得ることが出来ます!

④を除くと、『多重度の求め方』のms(スピン量子数)がml(磁気量子数)になっただけの違いです。

軌道・方位量子数・磁気量子数の関係は以下の通りとなっています。

軌道方位量子数 l磁気量子数 ml​
s00
p1-1, 0, +1
d22, -1, 0, +1, +2
f3-3, -2, -1, 0, +1, +2, +3

要するに、軌道の種類が分かれば磁気量子数もわかるということです。

続いて、電子全ての軌道角運動量量子数の和をML(=∑ml)を考えてみましょう!

例えば、ホウ素Bは電子配置が1s2 2s2 2p1であるので、この場合は、

ML=∑ml=0+0+0+0+{1 or 0 or -1}=1 or 0 or -1

となります。

このMLとLの関係は先ほど解説したMSとSの関係と同様であり、

ML=-L, -L+1, …, 0, …, L-1, L

です。つまり、MLの最大の数がLということですから、先のホウ素の場合はL=1となります。

最後に、Lの値を記号に対応させましょう!

Lの値と記号の対応は以下の通りとなります。

全軌道角運動量L記号
0S
1P
2D
3F

方位量子数lの対応と一緒ですから覚えやすいですね。

すなわち、ホウ素の場合はL=1だったので、記号としてはPとなるということです。

③全角運動量

最後に、全角運動量について解説していきます!

『全角運動量』は、多重度と全軌道角運動量のまとまり方について示した記号になります。

要するに、SとLが分かればこの全角運動量を求めることが出来ます。

結論から言うと、JとL・Sの関係は以下の通りです。

J=L+S, L+S-1, …, |L-S|

LとSについて、和と差とその間の数がJになるということですね。

例を出した方が分かりやすいと思うので、例えばスペクトル項が3Pというのを考えてみましょう。

最初に書いたようにスペクトル項は以下のように表現します。(今回はJを求めることが目的なので、Jは書いていません)

2S+1LJ

すなわち、スペクトル項が3Pとは、S=1かつL=1(:記号Pに対応)ということです。

S=1、L=1の場合にJを考えてみると、

J=1+1=2(:和)、J=1-1=0(:差)、J=1(:和と差の間の数)

より、J=0,1,2と算出されます。

したがって、3Pというスペクトル項にJをつけると、

3P2​,3P1​,3P0

と書くことが出来ます!

例題1 ホウ素 (1s)2 (2s)2 (2p)1

例題として、ホウ素のスペクトル項について考えてみましょう!

まず、ホウ素の電子配置を考えると、

(1s)2 (2s)2 (2p)1

となります。

ポイントは価電子だけ考えればよいという点です。

なぜなら、閉殻はL=0かつS=0となるため、スペクトル項には寄与しないからですね!

なので、今回は2p1のみ考えましょう!

まず、多重度を考えていきます。

MS=+1/2 or -1/2より、S=1/2となります。

よって、多重度2S+1=2です。

続いて、全軌道角運動量Lを考えます。

ML=1 or 0 or -1より、L=1です。

よって、全軌道角運動量の記号はPとなります。

最後に、全角運動量を考えると、J=L+S=3/2, L-S=1/2です。

したがって、ホウ素のスペクトル項は2P3/2, 2P1/2となります。

例題2 励起炭素 (1s)2 (2s)2 (2p)1 (3p)1

続いて、2p電子の1つが3p軌道に励起した励起炭素である

(1s)2 (2s)2 (2p)1 (3p)1

を考えてみましょう!

この問題のポイントは、2p軌道と3p軌道に1つずつ電子が入っているという点です。

このとき、全ての場合について電子がどのようなスピンをしているか考えなくてはなりません。

まずは、具体的に多重度を考えてみましょう!

2p軌道と3p軌道はそれぞれ上向き or下向きをとります。

なので、2×2=4通りのスピンの組み合わせがあるということです。

そこでMSを考えてみると、

MS={1/2 or -1/2}+{1/2 or -1/2}={1 or 0 or 0 or -1}

となります(0が2つ出てくるという点がポイントです)

まず、MSの最大値は1であるため、S=1が存在します。

ただし、S=1の時のMS=1 or 0 or -1であるため、MS=0が余ることになります。

このMS=0は、S=0に該当します。

したがって、S=0 or 1をとり、多重度2S+1=1 or 3となります。

続いて、全軌道角運動量を考えてみましょう!

先の解説で、p軌道(l=1)の時にml=1 or 0 or -1をとると述べました。

したがって、2p軌道の電子及び3p軌道の電子はそれぞれml=1 or 0 or -1をとるので、ML=3×3=9通りの組み合わせがあるということです。

具体的には、

ML={1 or 0 or -1}+{1 or 0 or -1}={2 or 1 or 0 or 1 or 0 or -1 or 0 or -1 or -2}

となります。

まず、MLの最大値は2ですから、L=2が考えられますね。

L=2のとき、ML=2 or 1 or 0 or -1 or -2となり、1, 0, 0, -1が余ります。

よって、先と同様に考えると、L=1及びL=0が存在すると考えられます。

したがって、L=0 or 1 or 2となり、記号としてはS or P or Dとなります。

最後に全角運動量Jを考えましょう!

ここまでをまとめると、S=0 or 1, L=0 or 1 or 2でした。

これらの組み合わせをすべて考えると、2×3=6通りのJが考えられます。1つずつ考えてみましょう!

((再掲)スペクトル項:2S+1LJ と表現します)

S=0, L=0の時、J=0である。よって、1S0となる。

S=0, L=1の時、J=1である。よって、1P1となる。

S=0, L=2の時、J=2である。よって、1D2となる。

S=1, L=0の時、J=1である。よって、3S1となる。

S=1, L=1の時、J=0 or 1 or 2である。よって、3P0, 3P1, 3P2となる。

S=1, L=2の時、J=1 or 2 or 3である。よって、3D1, 3D2, 3D3となる。

かなり多かったですね(笑)

これらがこの励起炭素のスペクトル項となります!

例題3 炭素 (1s)2 (2s)2 (2p)2

最後の例題として、炭素のスペクトル項を考えてみましょう!

この例題のポイントは、2p軌道に電子が2つ入っているという点です。

要するにスピン対が発生するということですね!

この場合、ml=+1 の状態に上向きスピンの電子を2個入れることは、パウリの排他原理により不可能です。

こうなると、式のみで考えることが難しいので、にして考えてみましょう!

具体的には、下記のような図を考えます。

ml=+1, ml=0, ml=-12つの電子を入れていきます。

パウリの排他原理に従い、スピン対の場合は上向きスピン下向きスピンになるようにしましょう!

上からも分かるように、その組み合わせの個数は6C2=15通りとなります。

そして、それぞれについてMSMLを計算します。

まず、MLの最大・最小は±2であり、このときはMS=0なので、L=2, S=0, J=2である1D2が存在することが分かります。

これは(ML, MS)=(2,0),(1,0),(0,0),(-1,0),(-2,0)の5つの組み合わせである、図の1, 3, 7, 12, 15が該当します。

続いて、MLの最大・最小は±1であり、このときにMS=±1があることが分かります。

よって、L=1, S=1, J=0,1,2である3P0, 3P1, 3P2が存在することが分かります。

これは(ML, MS)=(1, 1), (1,0), (1,-1), (0,1), (0,0), (0,-1), (-1,1), (-1,0), (-1,-1)の9つの組み合わせである、図の2, 4, 5, 6, 8, 9, 11, 13, 15が該当します。

ここまでのミクロ状態すべてに該当しないのは、No.10であり、このときはL=0, S=0, J=0である1S0が存在します。

以上より、スペクトル項をまとめると1D2, 3P0, 3P1, 3P2, 1S0が存在することが分かります。

実際にミクロ状態数は5 + 9 + 1 = 15であり、全ミクロ状態数 6C2 = 15 と一致することが分かりますね!

Tips:最安定のスペクトル項とは?

複数のスペクトル項が存在するとき、実はどれが最も安定(最もエネルギーが低い状態)なのかを判断するルールがあります。

そのルールは以下の通りです。

(ⅰ) 多重度が最大の項のエネルギーが最も低い

(ⅱ) 多重度が等しい項が複数ある場合、Lが最大の項のエネルギーが最も低い

(ⅲ) 2p2, 2p4, 3d1, 3d2…のように、殻が閉殻でない場合、

  • 殻が半分未満充填なら J が最小の項
  • 殻が半分より多く充填されているなら J が最大の項

のエネルギーが最も低い

実はこのルールは『フントの規則(Hund’s rules)』として知られています。

これのルールに従うと、最安定のスペクトル項を決めることが出来ます。

例えば、炭素のスペクトル項は先に解説した通り1D2, 3P0, 3P1, 3P2, 1S0でした。

まず、(ⅰ)より多重度が最大である ³P 項が最も安定となります。

次に、炭素の 2p² 配置は p 軌道に収容できる最大電子数 6 個の半分未満であるため、(ⅲ)より J が最小の状態が最も安定です。

したがって、炭素原子の基底状態は³P₀となります。

スペクトル項を求められるようになると、単に電子状態を分類できるだけでなく、「どの状態が最も安定なのか」まで判断できるようになります。

最後に

いかがでしたか?

今回は「スペクトル項とは何か」「スペクトル項の求め方」について解説してきました。

今回の内容をまとめると、

① スペクトル項は電子配置だけでは表せない電子状態を表す記号である

② スペクトル項は 2S+1LJ の形で表される

③ 多重度はスピン量子数の総和 MS から求める

④ 全軌道角運動量 L は磁気量子数の総和 ML から求める

⑤ 全角運動量 J は L と S から求める

⑥ 炭素の 2p² 配置からは ³P、¹D、¹S のスペクトル項が得られる

となります。

スペクトル項は最初は難しく感じるかもしれません。

ですが、多重度・L・Jを順番に考えていけば必ず求められるようになります!

この記事がスペクトル項の理解に役立てば幸いです。

ぜひ、参考にしてみてくださいね!

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この記事を書いた人

国立大学の化学科を首席で卒業!
現在はメーカー勤務の社会人です。
自身の経験を基に、勉強法や院試過去問解説などをしています!
詳しくはこちらのXから
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