皆さんは、
東京科学大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2024年入学東京科学大の物質理工学院応用化学系の有機化学の問題解答について、解説していきます!
問題(Ⅱ-1)はこちら(ホームページ)からダウンロードできます。
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!


Ⅱ-1(1)
①

解説
まず、C5H10Oかつ不斉炭素原子を持つアルデヒドを考えましょう。
おそらく、高校化学でやったはずなのでこれは分かるはずです!
続いて、立体配置について、以下のStep1~3で描くことが出来ます。
Step 1 不斉中心についている基に優先順位をつける
Step 2 優先順位が最も低い基を不斉中心に破線のくさび形で結合させる
Step 3 優先順位の高い順に時計回りに配置するとR配置、反時計回りに配置するとS配置となる
今回の場合、優先順位は、
(1) CHO (2) CH2CH3 (3) CH3 (4) H
の順となるので、Hを破線のくさび形で結合させ、優先順位の高い順に時計回りに他の基を配置すると、R配置のアルデヒドを描くことが出来ます!
もちろん、書き方は1通りではないのでいずれにしてもR配置になっていればよいです。
②
酢酸の方が分子当たりに形成する水素結合が多いため。
解説
水素結合は、
O, N, Fと結合した水素と別の分子のO, N, Fの孤立電子対との結合
のことです。
エタノールはEt-OHなのでOが1つですが、酢酸はCH3COOHとC=Oと-OHのOを2つ有しています。
要するに、カルボニル酸素の分だけ水素結合を多く形成できるからと言い換えることが出来ます。
実際、酢酸は下図のようにカルボニル酸素を介して二量体を形成し得ることは有名ですよね。

よって、酢酸の方がエタノールよりも沸点が高くなります。
③

解説
選択肢となっている全てのカルボン酸は、-COOHとは異なる官能基を有しています。
よって、ここで酸性度の比較をするために考えるべきは『電子求引性誘起効果』です。
電子求引性誘起効果によってカルボニル酸素の電子密度が低下するので、この効果が大きいほど酸性度は高くなります。
この求引性誘起効果の強さの順は、
ハロゲン(Cl) > -OH > -C6H5
と言われています (基本的には、ハロゲンの求引性誘起効果が大きいことを覚えておけばよいと思います)。
また、この置換基と酸性プロトンとの間が近いほど効果は大きいです。
したがって、解答の化合物の酸性度が最も高い(pKa値が最も小さい)と結論付けることが出来ます。
④

解説
A
アルデヒドからα-ヒドロキシカルボン酸を合成するには、まずシアン化物イオンと反応させてシアノヒドリンを得ます。
その後、酸触媒加水分解反応をすることによって、α-ヒドロキシカルボン酸を合成できます。

ここで重要なのは、NaCNだけではなく、HCNを共存させる必要があるということです。
この反応では、CN–がカルボニルにアタックして四面体中間体が生成されます。
もし、H+が存在していない場合はシアノ基の脱離能が高いため、Oの孤立電子対がCNを追い出して元に戻ってしまいます。
そこで、H+を存在させて-OHとし、CN–が脱離しないようにすると、シアノヒドリンを得ることが出来ます。
E
LiAlH4を用いることでヒドリド還元することが出来ます。
化合物Dはエステルとアミドを含んでいるので、これらが還元されます。

上図のように、エステルとアミドがヒドリド還元されると、解答のような化合物を得ることが出来ます!
⑤

解説
通常、カルボン酸とアミンは酸塩基反応を起こしてしまうので、求核付加-脱離反応が進行しません。
そこで、今回のようにカルボジイミドを用いて反応を進行させるようにします。
まずは、カルボジイミドがカルボン酸のH+を受け取り、その後カルボアニオンがカルボジイミドのCにアタックします。
得られるのは活性エステルであり、そこにアミンが求核付加して脱離反応が進行することで化合物Dと尿素誘導体が生成されます。
Ⅱ-1(2)

解説
G
ケトンと第二級アミンの反応です。
第二級アミンと反応すると、下図のようにエナミンが生成します。

ここで、今回のポイントとなるのは位置選択性です。
問題となっているケトンは非対称ケトンであり、α水素が2種類あります。
エナミンが生成する場合は、上図のように置換基が少ない方のα水素が塩基によって脱離します。
その理由について、まず二重結合に結合する置換基は同一平面上に存在します。
したがって、もしメチル基側のα水素が脱離した場合、メチル基と窒素化合物が同一平面上となるので、立体障害により不安定となります。
一方で、メチル基がない側であれば立体障害が小さいので、安定となります。
よって、置換基が少ない方のα水素が脱離するので、解答のような化合物が得られます!
H
ケトンと1,3-ジオールが反応すると、下図のように六員環アセタールが生成します。

I
ケトンとGrignard反応剤を反応させることによって、下図のように新たなC-C結合が形成できます。

また、今回の問題では脱水して二重結合が生成されます。
第二級アルコールはE1脱水反応であり、より安定なアルケンが主生成物です。
よって、メチル基が結合している側のβ炭素からプロトンが引き抜かれて、解答のようなアルケンとなります。
J
クライゼン-シュミット縮合反応と呼ばれる反応です。
下図のように、アルデヒドとケトンを縮合させる反応となります。

分子式がC14H16Oであることから、縮合反応であることが分かります。
Ⅱ-1(3)
①
K (c) L (b)
解説
K
塩基性が強い=プロトン化されやすい
と言い換えて考えてみましょう!
まず、(b)についてこのNの孤立電子対はπ電子なので、これがプロトン化されると芳香族性を失って不安定化します。
すなわち、プロトン化されにくいのでこの塩基性は弱いです。
続いて、(a)と(c)を比較すると、(a)はsp2混成、(c)はsp3混成です。
s性が高いほど電気陰性度が高く、より電子を原子核に引き付けます。
よって、よりs性が高いsp2はプロトン化されにくいと言え、最も塩基性が強いのは(c)だと結論づけられます!
L
電子が非局在化しているとプロトン化されにくいです。
(a)はカルボニルと、(c)は環内で非局在化しており、(b)のみ電子が局在化しています。
したがって、最も塩基性が強いのは(b)だと結論づけられます!
②
化合物Mの中間体が上図であり、化合物Nの中間体が下図である。前者は窒素の孤立電子対が非局在化して安定化するが、後者は非局在化せずに不安定である。したがって、化合物Mのみが生成する。

解説
共鳴寄与体が存在している中間体の方が安定です。
化合物Mは図のように窒素のπ電子が非局在化しますが、一方で化合物Nではカルボカチオンに流れ込むような非局在化電子が存在しません。
したがって、中間体がより安定な化合物Mのみが生成するということが出来ます。
最後に
いかがでしたか?
今回は、2024年度東京科学大院試の応用化学系の有機化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!



コメント