皆さんは、
東工大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2024年入学東工大の物質理工学院応用化学系の有機化学の問題解答について、解説していきます!
問題(Ⅰ-1)はこちら(東工大ホームページ)からダウンロードできます。
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!
Ⅰ-1(1)
①
A
B
C
解説
『共鳴構造式を書け』という問題は、様々な大学で頻出です。
確実に点を取っておきたい問題ですね!
特筆すべき点はあまりないですが、Cの問題で形式電荷を明示することを忘れないようにしましょう!
②
E > D > G > F
解説
塩基性を考える問題も頻出です。
このような問題で重要となるのが『電子密度』であり、より電子が豊富であればあるほど塩基性が強いと言えます。
今回の問題について、Nの電子密度が隣接基によってどのように影響を受けるかで分類することができます。
つまり、
D(アンモニア)…隣接基によってそれほどNの電子密度はあまり変化なし
E(トリエチルアミン)…隣接基(アルキル基)によってNの電子密度が増大
F・G(ホルムアミド・アニリン)…隣接基(カルボニル・ベンゼン)によってNの電子密度が減少
です。
よって、この時点でE > D > F・G
を確定でき、Fはアミド(=塩基性をほとんど示さない)であることを考えると、
E > D > G > Fと結論づけることができます。
➂
8個
解説
*を付けた箇所が不斉炭素です。
おそらく8個だと思いますが、ぜひ皆さんも数えてみてください!
④
解説
いわゆる『メソ化合物』の問題です。
同じ4種の原子(基)が結合している2つの不斉中心をもつ化合物は『メソ化合物(=アキラル)』を有する
不斉炭素原子が2つあるので、一見すると立体異性体が4つあるように思いますが違います。
1,2-ジメチルシクロブタンにおける下図のような立体異性体は、『対象面』を持つのでアキラルな化合物(=メソ化合物)です。
1,2-ジメチルシクロブタンのようにメソ化合物を持つ場合、立体異性体は4つではなく3つなので注意しましょう!
⑤
H
理由:I・Jはいずれもシス体であり、互いに接近しづらい。一方で、Hは直鎖であるから互いに接近しやすい。互いに接近しやすいほど分子間相互作用は強く働き、その融点も高くなる。したがって、融点が最も高い脂肪酸はHである。
解説
融点を比較する問題の中でも比較的単純な問題です。
分子間相互作用の強さが、融点や沸点といった物理的性質に影響を及ぼすことはおそらく知っていると思います。
こういったアルキル鎖を中心とした化合物では、立体障害がポイントです!
一般に、シス体は立体障害が大きく、トランス体は立体障害が小さいと言われています。
なぜなら、折れ曲がっていると互いに接近しづらいからです。
今回の場合、IとJはいずれもシス体なので、どちらも立体障害が直鎖であるHよりも大きいため、Hが最も融点が高いと結論づけられます。
Ⅰ-1(2)
①
(n-Bu)4NClは相間移動触媒として機能する。NaOHはCHCl3に溶解しにくいため、通常はこれらの反応が進行しない。しかし、ここに(n-Bu)4NClを加えると、この第4級アンモニウムイオンがOH–と水中で結合して塩が生成する。この塩はCHCl3中に移動できるため、反応がすみやかに進行する。
解説
今回の反応では、NaOHとCHCl3が反応してジクロロカルベンCCl2という反応中間体が生成します。
強塩基+CHX3(X=F, Cl, Br)でカルベンという活性種ができるということを記憶しておかないと今回の問題は解けないので、知らない方はぜひこの機会に覚えておきましょう!
カルベンについては、こちらの動画が非常に参考になりますのでぜひ見てみてください!
このようなジクロロカルベンを生成するためにはNaOHとCHCl3が反応する必要がありますが、通常はNaOHはCHCl3に溶解しないため、反応がしづらいです。
そこで用いられるのが『相間移動触媒』となります!
相間移動触媒としてよく用いられるのが、今回の問題にも登場した第4級アンモニウム塩です。
相間移動触媒は水にも有機溶媒にも溶解するため、水中のイオン(OH–)を有機溶媒(CHCl3)へ運搬することができます。
したがって、今回の問題では(n-Bu)4NClを用いたことで反応が速やかに進行するということになります。
②
解説
先ほどの動画でも解説されていましたが、カルベンとアルケンの反応は協奏的に反応が進行します!
つまり、アルケンの立体化学が保持されるということです。
したがって、解答のように結論づけることができます。
➂
立体特異
解説
暗記問題です。
『立体選択的反応』と名称が似ているので、間違えないようにしましょう!
立体選択的反応
A → B + C
一方(B)の立体異性体が、他方(C)の立体異性体よりも多く生成する反応のこと
立体特異的反応
A → B
C → D
出発物Aでは立体異性体B、出発物Cでは立体異性体Dのように、出発物の立体化学によって生成物の立体化学が一義的に決まる反応のこと
Ⅰ-1(3)
M・N・O
P・Q・R
解説
M
接触水素化反応です。
還元反応はいくつかあり、反応条件によってどの官能基を還元できるかが異なります。
出発物はα,β-不飽和カルボニルなので、二重結合のみか、カルボニルのみか、両方還元のいずれかを判断する必要があります。
例えば、『有機化学ブルース』に載っている還元反応を記載すると以下のようになります。
したがって、今回の条件では不飽和結合のみが還元されるため、解答のようになります。
N
いわゆる『ジアゾカップリング反応』です。
アニリン+亜硝酸+酸という条件から、この反応を想起できるということがポイントになります!
1つ目の条件でジアゾニウムイオンを生成した後、これとN,N-ジメチルアニリンのp位が反応すると解答のようになります。
(生成物は通称『バターイエロー』と呼ばれている化合物です。)
O
ラジカル置換反応です。
ここでのポイントは、ラジカルの相対的安定性を理解しているかどうかとなります!
NBS(N-ブロモコハク酸イミド)は、二重結合の隣(アリル位やベンジル位)を臭素化するのに用いられます。
なぜなら、NBSを反応させる際に中間体としてラジカルが発生しますが、以下のようなベンジルラジカルやアリルラジカルの安定性が高いからです。
よって、今回の問題ではベンジルラジカルが中間体として発生し、それと臭素ラジカルが反応するため、解答のような生成物が発生します。
P
ベンゼンの置換反応です。
(3)の中だと最も考える問題かもしれません。
この問題のポイントは、
①カルボニル基にAlCl3が配位すること・②カルボン酸のカルボニル基の反応性は低いこと
です。
考え方としては次のようになります。
まず、AlCl3 は一般にカルボニル基に配位し、カルボニル基のOに形式電荷が発生します。
この形式電荷を消失させるようにベンゼン環はアタックしますが、相手はα,β-不飽和カルボニルなので二重結合とカルボニル基のどちらかにアタックします。
今回の場合はカルボン酸が相手であり、カルボン酸のカルボニル基は反応性が一般に低いため、二重結合の方にベンゼン環がアタックし、このような中間体が生成します。
以後、ケト・エノール互変異性とAlCl3の配位がとれることで、解答のような生成物ができると結論づけることができます。
Q
Diels-Alderの逆反応 (retro Diels-Alder反応)です。
今回の題材のような立体化学でかつ二重結合を有していたら、まず『Diels-Alder反応』を疑いましょう!
Diels-Alder反応は加熱することにより、(出発物が安定な場合は)逆反応が起こります(これを『retro Diels-Alder反応』と呼びます)。
Diels-Alder反応の逆合成解析の考え方は、以下の2ステップのようになります。
- まず、反応物として用いられたジエンの二重結合は、生成物にある二重結合の両側にあったはず。したがって、π結合を取り、その両側にπ結合を書きます。
- 2つの二重結合の両側に新しいσ結合ができることで生成物が生じたので、それらのσ結合を取り、その間にπ結合を作ると、反応物であるジエンと求ジエンを得ることができます。
今回の場合、ジエンと求ジエンはいずれもシクロペンタジエンなので、解答のように結論づけることができます。
R
Claisen転移反応です。
今回の化合物のように、アリルビニルエーテルを加熱といった場合はClaisen転移反応を疑いましょう!
Claisen転移は加熱により、以下のように容易に反応が進行します。
したがって、解答のように結論づけることができます。
最後に
いかがでしたか?
今回は、2023年度東工大院試の応用化学系の有機化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
コメント
コメント一覧 (4件)
今年の夏に院試を控えているのですが、とっても参考になります!
今後の解説も楽しみにしています!
よろしくお願いします!
かめ様
コメントいただき、ありがとうございます。
かめ様の院試勉強の参考になれば幸いです!
これから解説を増やしていく予定ですので、今後も当ブログをよろしくお願いします!
I-1(2)が分からなくて困っていたので非常に助かりました。ありがとうございます。
恐縮ですが、無機化学の解説もしてくださると幸いです。
他の問題の解説も楽しみにしています!
よろしくお願いします!
抹茶様
コメントいただき、ありがとうございます。
Ⅰ-(2)は知らないと解きにくい問題ですよね。参考になったのであればよかったです!
現在、無機化学の解説の執筆を進めていますので、少々お待ちいただければ幸いです。
今後も、当ブログをよろしくお願いします!