皆さんは、
東工大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2024入学東工大の物質理工学院応用化学系の物理化学の問題解答について、解説していきます!
問題(Ⅰ-3)はこちら(東工大ホームページ)からダウンロードできます。
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!
Ⅰ-3(1)
①
ア 引力
イ 反発力
ウ 小さい
エ 高い
解説
実在気体の問題です!
完全気体と実在気体の違いは高校化学でも覚えたと思いますが、完全気体では以下の2点が無視されています。
・分子間力を無視
・分子自身の体積を無視
つまり、ファンデルワールス方程式は上記の2点について完全気体の状態方程式( pV=nRT )を補正した式です!
実際に、
p =〇 ⇒ p =〇-an 2/V 2
V ⇒ V –nb
に変わっています。
a について、
引力相互作用があると分子の衝突は弱められるため、圧力p が低下します。
これを表しているのがa を含む項であり、したがってa は引力(ア)相互作用を表します。
b について、
反発力相互作用があると分子が互いに近づきにくくなり、分子は他が入り込めない(貫入できない)自身の体積を持つため、全体の体積V が低下します。
これを表しているのがV –nb であり、したがってb は反発力(イ)相互作用を表します。
HeとArではHeの方が小さく、より分子が占める体積が小さい(nbは小さい)と言えるため、Heの方がb の値は小さい(ウ)となります。
そして、T が大きければ第一の項>>第二の項となり、またV が大きければV –b≒V と言えるので、モル体積の大きい気体ほど、また温度が高い(エ)ほど実在気体に理想気体は近づくと言えます!
。
②-(a)
S 2=S 1+αln(T 2/T 1)+β(T 2–T 1)
解説
エントロピーを求める問題なので、まずはエントロピーの定義式である
dS =dq /T
を思い出し、これを変形していきましょう!
今回の問題で重要となるのが、
定圧変化で成り立つ式:dq =dH
定圧熱容量の定義式:C p=(∂H /∂T )p
で、これらを用いてエントロピーの定義式を変形すると、
dS =dq /T =dH /T (∵dq =dH )=(C p,m/T )dT(∵C p=(∂H /∂T )p )
となり、これを両辺積分します。
∫[S 1→S 2]=∫[T 1→T 2](α/T + β)dT
S 2=S 1+αln(T 2 /T 1)+β(T 2–T 1)
以上より、解答のように結論づけることができます。
②-(b)
T 1=300 K(=27℃), T 2=400 K(=127℃)とする。
定圧熱容量の定義より、
ΔH =∫[T 1→T 2](C p)dT=[αT +(1/2)βT 2]T 2 T 1
=α(T 2–T1)+(1/2)β(T 22–T 12)
=20*100+(1/2)*0.40*70000
=2000+14000=16000=1.6×104 J
定圧条件より、q =ΔH =1.6×104 J
また、気体の状態方程式より、
w =-p ΔV =-nRΔT =-1.0*8.3*100=-8.3×102 J
熱力学の第一法則より、
ΔU =q +w =16000-830=15170=1.5×104 J
解説
基本的にこういった物理量を求める上で重要なのが、熱力学第一法則です。
ΔU =q +w (q:外部より流入する熱量、w=外部からなされる仕事)
この式より、ΔU・q・w のうち2つが分かればもう1つの値はこの式を用いて求められるので、どうにか2つを求める方法を模索します。
まず、先ほどの問題で取り上げた2つの式を今回の問題でも活用していきます。
定圧熱容量の定義からdH =C pdTであり、これを両辺積分することによってΔH を求めることができます。
また、問題文の条件より定圧変化ですから、ΔH =q が成り立ちます。
加えて、気体定数の値が出ていることから状態方程式を使うことが予想できます。
定圧条件下では、p ΔV =-nRΔT が成り立ちます。
したがって、w=-p ΔV =-nRΔT より解答のように算出することができます。
pΔV =nRΔTの導出
(p+Δp)(V+ΔV)=nR(T+ΔT)を変形して、
pV+pΔV+ΔpV+ΔpΔV=nRT+nRΔT
pV=nRT、Δp=0、ΔpΔV≒0より、
pΔV =nRΔTが成り立ちます。
外部からなされる仕事が正なので、気体がなす仕事(膨張して外部になす仕事)は負となることに注意です!
最後に、冒頭で述べた熱力学第一法則を用いることでΔU を算出することができます。
Ⅰ-3(2)
①
(ⅱ) 成分 A と成分 B の液体が混合した溶液と純固体Bから構成される状態。
(ⅲ) 純固体Aと純固体Bから構成される状態。
解説
相図から系の状態を読み取る問題です。
ⅰ→ⅱ
ⅰの状態は問題文にもある通り、固体が存在しない溶液状態です。
そこから、温度を低下させていくと曲線YEとの交点で純固体Bが析出し始めます。
更に温度が低下すると析出する純固体Bは増えていき、ⅱの状態では混合溶液と固体Bが共存する状態と言えます。
ⅱ→ⅲ
ⅱの状態から温度を低下させていずれ点Eの温度に到達すると、純固体Aも析出し始めます。
したがって、ⅲの状態は純固体Aと純固体Bから構成される状態と言えます。
ちなみに、この図の点Eは共融点と呼ばれており、この温度がこの混合物における最も低い凝固点(融点)です。
②
xn
解説
特に解説は必要ないかもしれませんね!
全モル数がnで、そのうちのBの割合がxですから当然Bのモル数はxnとなります。
➂
n (L)x b+n (S)
解説
Bのモル数は液体に含まれるBのモル数と固体に含まれるBのモル数の総和になります。
(ⅱ)の状態は①の問題で記述したように、
成分 A と成分 B の液体が混合した溶液と純固体Bから構成される状態
です。
したがって、まず(ⅱ)の状態における固体はBのみから構成されますから、n (S)は全てBのモル数と言えます。
また、条件より溶液中のBのモル分率がx bですから、溶液中のBのモル数はn (L)*x bです。
したがって、これらの総和なので解答のように結論づけることができます。
④
②と➂より、
x n= n (L)x b+n (S)
ここで、n =n (L)+n (S)であるから、
x {n (L)+n (S)}=n (L)x b+n (S)
両辺n (S)で割って、
x {n (L)/n (S)+1}={n (L)/n (S)}*x b+1
∴ n (L)/n (S)=(1-x )/(x –x b)
解説
②と➂が誘導になっている問題です。
②=➂なので、それを利用して式を変形していけば解答のように結論づけることができます!
ちなみに、この式は『てこの原理』と呼ばれています。
『てこの原理』
状態ⅱのような2相領域において、上図のように水平線を引いて線分 |x –x b|と|1-x|をとる。
この時、てこが分銅m と支点からの距離lについてm al a=m bl bが成り立つように、
n (L)|x –x b|=n (S)|1-x|
が成り立ちます。
⑤
点Eでは成分Aと成分Bが完全に相互に溶け合った溶液相と純固体Aからなる固相、純固体Bからなる固相の3相から構成される。したがって、C =2、P =3より、F =2-3+1=0から点Eでの自由度Fは0となる。
解説
ギブスの相律について、一般に教科書では
F =C –P +2
と記載されており、Fは相の数に干渉せず、どれほど独立に(温度や圧力といった)示強変数を変更できるのかを表しています。
しかし、ここで”2“は温度と圧力を表していることに注意です!
今回のように液相と固相からなる系では圧力一定と考えられるため、圧力は変数に含まれません。
したがって、問題のようにギブスの相律はF =C –P +1となります。
最後に
いかがでしたか?
今回は、2023年度東工大院試の応用化学系の物理化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
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