高校化学では、鉄が Fe²⁺(鉄(Ⅱ)) と Fe³⁺(鉄(Ⅲ)) の両方のイオンとして存在することを学びます。
ですが、
『なぜ、鉄は二価と三価の両方になれるの?』
『どういうときに鉄は二価もしくは三価になるの?』
か気になりませんか?
これを理解するポイントは、
『電子の配置とイオンの安定性』
です!
この記事では、Fe2+とFe3+が安定な理由及びどのような条件でFe2+かFe3+になるのかについて大学化学の視点から解説していきます!
大学化学の知識が不可欠!
鉄には二価のイオンと三価のイオンが存在することを理解するには、大学化学の知識が不可欠です。
高校化学までの知識で説明できないため、高校化学では『鉄は二価と三価のイオンになり得る』と丸暗記するしかありません。
ですが、あえて簡単に鉄が二価と三価になる理由を言うならば、
Feから電子を2個取り除いたものと、3個取り除いたものがエネルギー的に安定だから
という感じですね。
ここからは、
『なぜ電子を2個及び3個取り除いた場合にエネルギー的に安定なのか』
を大学化学の知識を使って説明していきます!
まずは鉄の電子配置を考えよう!
先に述べたように、『鉄から電子を2個及び3個取り除いた場合がエネルギー的に安定』なので、鉄の電子配置を考える必要があります。
結論から言うと、鉄の電子配置は以下のようになります。
Fe:1s2 2s2 2p6 3s2 3p6 3d6 4s2 ([Ar]3d6 4s2)
1s軌道、2s軌道…と電子が入っていき、3d軌道に電子が6個、4s軌道に電子が2個配置されたのが鉄です。
Arの電子配置+3d電子6個+4s電子2個なので、[Ar]3d6 4s2と表記することもあります。
これが理解できれば、鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)が安定であることを理解できるはずです!
鉄を含むdブロック元素では、多くの場合に3dn4s2という電子配置になります。
4s軌道 > 3d軌道なので、低エネルギーの軌道から電子を入れると4s軌道に電子が入りません。
この電子配置になる理由は、『4s軌道に電子が入った方が電子間反発が小さくなるから』です。
電子同士は反発するので、それぞれは出来る限り離れたところにいたいはずです。
例えば、3d軌道に電子が8個と3d軌道に電子が6個と4s軌道に電子が2個だと後者の方が電子間反発が小さくなります!
したがって、この『電子間反発』を小さくするために、このような電子配置となります。
鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)が存在するのはなぜ?
鉄(Ⅱ)が存在する理由
イオン化させるには中性原子から電子を取り除いていけばよいです。
電子を取り除くためにはエネルギー(=イオン化エネルギー)が必要です。
言い換えると、電子を取り除いて安定である場合にイオンとして存在できると言えますね。
すなわち、鉄の場合は、2個電子を取り除いた場合と3個取り除いた場合が安定ということです。
先述した通り、鉄の電子配置は[Ar]3d6 4s2 でした。
電子軌道のエネルギー準位は4s軌道 >3d軌道なので、まずは高エネルギーの4s軌道の電子から取り除いていきます。
つまり、Fe2+が鉄イオンとして存在できるのは4s軌道の電子がなくなり、エネルギー的に安定になるからと言えます。
鉄(Ⅲ)が存在する理由
これに加え、鉄は三価のイオンとしても存在できます。
つまり、3d6から電子を1個取り除くということですね。
ここでポイントとなるのが、『半充填殻が安定』ということです。
半充填殻とは、軌道群がちょうど電子で半分だけ埋まった状態のことです。
閉殻と比較して図にすると、以下のような感じですね。

半充填殻が安定な理由は、
・電子間の反発的相互作用が小さいこと
・交換エネルギーによる安定化
の2つの作用によります。
1つ目について、これはなんとなく、
『同じ軌道に入っているよりも別の軌道に電子が入っている方が電子間の反発は小さそう』
と分かると思います。
電子がこのように軌道に入る際に関係し合いますが、この性質はスピン相関と呼ばれています。
2つ目について、突然ですが、平行配置にあるそれらの電子は互いに交換可能です。
このように、電子が『交換可能』である時には『交換エネルギー』と呼ばれるエネルギー分だけ安定化します。
少しわかりにくい概念かもしれませんが、有機化学の『共鳴』を思い出してみると分かりやすいです。
共鳴寄与体が書けるほど、有機分子は安定しますよね。
『交換エネルギー』は『共鳴』の無機化学ver.と覚えると良いかもしれません!
これらの効果によって、半充填殻は安定となります。
つまり、Fe3+が鉄イオンとして存在できるのは、半充填殻になってエネルギー的に安定になるからと言えます。
どのような状態の時にFe(Ⅱ)とFe(Ⅲ)になるか
ここまで、鉄は二価のイオンと三価のイオンになり得るということを説明してきました。
それでは、最後にどういったときに二価になり、どういったときに三価になるのかについて解説していきます。
これを理解するには、酸化還元について深い理解が必要です。
酸化還元と言えば、
還元剤:電子を放出する
酸化剤:電子を受け取る
でしたよね。
ここまでは高校化学の範囲ですが、大学化学ではその酸化還元の強さを表す指標が登場します。
それが、『標準電極電位(標準電位)』という指標です。
これは、H+を基準とした時の電位を表しており、指標としては、
標準電極電位が正:強い酸化剤
標準電極電位が負:強い還元剤
を示しています。
標準電極電位の例として、ダニエル電池を考えてみましょう!
ダニエル電池は銅板と亜鉛板から成る電池で、起電力が1.1 Vであることが知られています。
正極:Cu2+ + 2e– → Cu E◦(Cu2+/Cu)=+0.34 V
負極:Zn → Zn2+ + 2e– E◦(Zn2+/Zn)=-0.76 V
の反応が起こり、それぞれの標準電極電位はE◦で示した通りです。
先ほど、標準電極電位が正⇒酸化剤、負⇒還元剤として機能すると述べましたが、実際に銅が酸化剤、亜鉛が還元剤として働いています。
そして、この標準電極電位の差である0.34-(-0.76)=1.10 Vが電池電位であり、起電力と一致していることが分かります。
例えば、鉄イオンの半反応を考えてみると、
Fe3+ +e–→Fe2+ E◦(Fe3+/Fe2+)=+0.77 V
です。
すなわち、標準電極電位が+0.77 Vよりも大きい酸化剤が周囲にいる場合、Fe2+ →Fe3+ +e–として反応が進行するのでFe(Ⅲ)となります。
逆に、標準電極電位が+0.77 Vよりも強い酸化剤がいなければFe2+として存在できることになります。
要するに、比較的強い酸化剤が存在するとFe3+が、存在しないとFe2+になるということです。
例えば、高校化学では『Fe2+に希硝酸を加えるとFe3+が生成する』というのがありました。
希硝酸の半反応式は、
NO3– + 2H+ +2e–→NO2– +H2O E◦(NO3–/NO2–)=+0.835 V
です。
つまり、希硝酸の方が標準電極電位が大きいので、希硝酸⇒酸化剤、鉄イオン⇒還元剤として機能して鉄は三価のイオンとなります!
今回は、鉄がFe(Ⅱ)かFe(Ⅲ)のいずれかになることを前提として考えましたが、実際は環境(特にpH)によっては、水酸化鉄等の固体として沈殿することもあります。
最後に
いかがでしたか?
今回は、鉄が Fe²⁺ と Fe³⁺ の両方のイオンとして存在できる理由について解説しました。
ポイントをまとめると、
・鉄の電子配置は[Ar]3d6 4s2
・鉄のイオン化では、エネルギー準位の高い4s電子から失われる
・Fe2+は4s電子を失った安定な状態
・Fe3+は3dの半充填殻となり、安定となる
・実際にのどちらになるかは周囲の酸化還元環境によって決まる
となります!
高校化学では「鉄は二価と三価のイオンになる」と暗記することが多いですが、大学化学の知識を用いるとその理由を電子配置やエネルギーの観点から理解できます。
今回出てきた、半充填殻の安定性 や 標準電極電位 の考え方は大学院入試でも頻繁に登場する重要な概念です。
ぜひ、参考にしてみてくださいね!

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