皆さんは、
東大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2024年度(令和6年度)入学 東大 応用化学科 応用化学専攻の物理化学の問題解答について、解説していきます!
問題(第1問)はこちら(東大ホームページ)からダウンロードできます。
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/hubfs/graduate/2024/Past_Entrance_Examinations/C_J_E_2024.pdf
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!
Ⅰ.
1.
解答
Π=cRT/M
解説
van’t Hoffの式は、
Π=c‘RT (c‘=モル濃度)
と表すことができます。
今回の問題の注意点は、cが質量濃度であるということです!
van’t Hoffの式は、
Π=nRT/V (n=モル数、V=体積)
とも記述できます。
ここで、n=w/M (w=質量)ですから、
Π=wRT/MV =cRT/M (∵c=w/V)
となります!
2.
解答
ΔTf=0.14 K
解説
凝固点降下を得るためには、まず質量モル濃度bを算出する必要があります。
c(mol m-3)=c×10-6 (mol cm-3)=Π×10-6/RT (mol cm-3)
b=nB/W=(Π×10-6/RT)/0.86 (mol g-1)
=(Π×10-6/RT)×103/0.86 (mol kg-1)
=100/(8.31×300×0.86)=1/(8.31×3×0.86)
よって、
ΔTf=Kfb=3.00×1/(8.31×3×0.86)=0.14 K
となります!
3.
解答
系は溶媒Aと溶質Bから成る液相と純粋なAのみから成る固相で構成される。
凝固点(TMP)における両相に存在するAの化学ポテンシャルは等しいので、
µA*(s)=µA*(l)+RTlnxA
これを変形して、
lnxA={µA*(s)-µA*(l)}/RT=ΔfusG/RT (ΔfusGは純溶媒の融解ギブズエネルギー)
となる。
この両辺を温度で微分して、
dlnxA/dT=d(ΔfusG/RT)/dT=1/R×d(ΔfusG/T)/dT
ギブズ・ヘルムホルツの式(∂(ΔG/T)/∂T)p=-ΔH/T2を適用すると、
dlnxA/dT=-ΔfusH/RT2 ∴dlnxA=-ΔfusH/RT2 dT
この両辺を積分して、(純溶媒lnxA=0の時TMP、溶質xAを含む(lnxA)時、T)
∫[0→lnxA]dlnxA=∫[TMP→T](-ΔfusH/RT2) dT
∫[0→lnxA]dlnxA=-1/R ∫[TMP→T](ΔfusH/T2) dT
lnxA=-ΔfusH/R ∫[TMP→T](1/T2) dT
ln(1-xB)=ΔfusH/R (1/T – 1/TMP)
ln(1-xB)=-ΔfusH/R (1/TMP – 1/T)
ln(1-x)=-x (x<<1)より、
xB=ΔfusH/R (1/T – 1/TMP)
ΔT=TMP–T
xB=ΔfusH/R {1/(TMP-ΔT)-1/TMP}
1/(X–x) – 1/X=x/X2 (x<<X)より、
xB=ΔfusH/R (ΔTf/TMP2)
∴ ΔTf=(RTMP2/ΔfusH)xB が成り立つ
解説
式を導出する問題です。
ここでカギとなるのは、
凝固点では、固相と液相におけるAの化学ポテンシャルが等しい
ということです!
また、液相におけるAの化学ポテンシャルµA(l)は、
µA*(l)+RTlnxA
と記述できるということも覚えておく必要があります。
あとは、これを与えられている近似式とギブズ・ヘルムホルツの式を活用しながら解答のように導出していきます!
Ⅱ.
1.
解答
時間に依存しない時、波(調和波)は一般的に波長λを用いて、
cos[(2π/λ)x]
と記述することができる。
Schrodinger方程式の解の1つが式(5)で表されるので、これと式(5)を比較することにより、
2π/λ={2m(E–V0)/h2}1/2
であることがわかる。
ここで、式(6)よりEk=p2/2mであり、E=V0+Ekであるから、
2π/λ={2m(p2/2m)/h2}1/2=p/ℏ
が成り立つ。
よって、
p=2π/λ×ℏ=2π/λ×(h/2π)=h/λ
となる。
解説
高校物理では、波の式といえばsinを用いて表すことが多かったですよね。
ですが、量子化学ではcosを用いて記述することがより一般的です。
特に時間に依存しない条件であれば、波を一般的に
cos[(2π/λ)x]
と記述されます。
これとSchrodinger方程式の解を比較し、式変形することでde Broglieの式を得ることができます!
2.
解答
|ψ(x)|2dxがxの微小領域dxに粒子を見出す確率Pであるから、
P=∫[2.5→5.0] ψ(x)2 dx
=∫[2.5→5.0] {(2/10)sin2(πx/10)}dx
=1/10∫[2.5→5.0] {(1-cos(2πx/10)}dx
=1/10{2.5-(5/π)(sin(π)-sin(π/2)}
=1/10(2.5+5/π)=1/4 + 1/2π
よって、この領域に粒子が存在する確率は1/4+1/2πである。
解説
粒子の存在確率は、
|ψ(x)|2
から算出できるということを『ボルンの解釈』と呼びます。
指定範囲で積分することで、解答のように算出することができます!
3.
解答
二原子分子の実際の解離エネルギーは、零点エネルギー分だけDよりも小さい。
解説
グラフを描く問題です。
グラフを描く際には、大まかにRを変化させたときにどのようにV(R)が変化していくかを見ていきます。
例えば、
R→0の時、V=D(exp(2aRe)-2exp(aRe))>0
R→Reの時、V=-D
R→∞の時、V→0
となります。
振動のポテンシャルエネルギーは二次関数のような形になることも加味しながら、グラフを描くと上図のようになります!
また、量子化学の系を考えるときに重要となってくる概念が『零点エネルギー』です。
基底状態のエネルギーとも言い換えできます。
粒子は不確定性原理(=位置や運動量が定まらない)により、最低でもある程度のエネルギーを持ちます。
つまり、エネルギーがV(R)の最低値(=-D)になることはなく、基底状態でも零点エネルギー分だけエネルギーを保有しているということです。
解離エネルギーは、この基底状態からR→∞(V(R)→0)にするまでに要するエネルギーです。
したがって、解離エネルギーは零点エネルギー分だけDよりも小さいと言えます!
4.
解答
a=√kf/2D
解説
調和振動子モデルにおいてポテンシャルエネルギーV(R)は、
V(R)=(1/2)*kfR2
です。
このままでは、式(7)とこの式を単純に比較することはできません。
つまり、式(7)を多項式のような形にする必要があります。
ここで思い出したいのが、『テイラー展開』です!
テイラー展開をすることで、複雑な関数を多項式で表すことができます。
関数fの点aまわりでのテイラー展開
f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+1/2! f”(a)(x-a)2 +1/3! f”'(a)(x-a)3…
V(R)=1/2 kfR2と比較するために、二階微分まで取ればよいです。
R=Reまわりでテイラー展開した時、R2の係数は1/2! f”(Re)なので、
f”(R)=D[(4a2)exp{-2a(R–Re)}-2a2exp{-a(R–Re)}]より、
f”(Re)=2a2D
∴ 1/2! f”(Re)=a2D
比較すると、
1/2 kf=a2D ∴ a=√kf/2D
が成り立ちます!
Ⅲ.
1.
解答
d[A]/dt =-k1[A]+k-1[B]
ここで、[A]0+[B]0=[A]+[B] ∴[B]=[A]0+[B]0-[A]
よって、
d[A]/dt =-k1[A]+k-1([A]0+[B]0-[A])
=-(k1+k-1)[A]+k-1([A]0+[B]0)
解説
問題のような平衡に向かう1次反応において、順反応と逆反応の速度v、v‘は、
A→B(順反応) v=kr[A]
B→A(逆反応) v‘=kr‘[B]
のように記述することができます。
順反応ではAの濃度が減少し、逆反応ではAの濃度が増加するので、
d[A]/dt =-k1[A]+k-1[B]
となります。
ここで、初めに投入した[A]0と[B]0は[A]か[B]であるので、
[A]0+[B]0=[A]+[B]
が常に成り立ちます。
これを用いて変形していくと、解答のようになります!
2.
解答
d[A]/dt=-(k1+k-1)[A]+k-1([A]0+[B]0)より、
∫([A]0→[A])[1/{-(k1+k-1)[A]+k-1([A]0+[B]0)}]d[A]=∫(0→t)dt
∫([A]0→[A])[1/[A]-{k-1/(k1+k-1)}([A]0+[B]0)}]d[A]=-(k1+k-1)∫(0→t)dt
y=[A]-{k-1/(k1+k-1)}([A]0+[B]0)}と置くと([A]0の時y0、[A]の時yとすると)、
∫(y0→y)(1/y)dy=-(k1+k-1)∫(0→t)dt
∴ y=y0exp{-(k1+k-1)t}
ここで、
y0=[A]0-{k-1/(k1+k-1)}([A]0+[B]0)}
=(k1[A]0–k-1[B]0)/(k1+k-1)
であるから、y=y0exp{-(k1+k-1)t}は、
[A]-{k-1/(k1+k-1)}([A]0+[B]0)}={(k1[A]0–k-1[B]0)/(k1+k-1)}exp{-(k1+k-1)t}
∴[A]=[k-1([A]0+[B]0)+(k1[A]0–k-1[B]0)exp{-(k1+k-1)t}]/(k1+k-1)
となる。
解説
1.で得た微分方程式を解く問題です。
この問題のポイントは解答のように、分母全体をyで置き換えることです。
そうすれば、比較的容易に解くことができますよ!
3.
解答
[A]eq=k-1([A]0+[B]0)/(k1+k-1)
[B]eq=k1([A]0+B0)/(k1+k-1)
K=k1/k-1
解説
平衡になる時とは、t→∞を考えればよいです!
2の結果を用いて、exp(-∞)=0なので、
[A]={k-1([A]0+[B]0)}/(k1+k-1)
また、
[B]=[A]0+[B]0-[A]
=[A]0+[B]0-{k-1([A]0+[B]0)}/(k1+k-1)
=k1([A]0+B0)/(k1+k-1)
となります。
ちなみに、平衡時では順反応の速度と逆反応の速度が等しいので、
k1[A]=k-1[B]
が成り立ちます。
したがって、
[B]=k1[A]/k-1=k1([A]0+B0)/(k1+k-1)
と求めることもできますよ!
以上の結果を用いて、平衡定数Kは、
K=[B]/[A]={k1([A]0+B0)/(k1+k-1)}/{k-1([A]0+[B]0)/(k1+k-1)}
=k1/k-1
と算出することができます!
4.
解答
d[A]/dt
=-k2[A]+k-2[B]
=-k2([A]eq2+x)+k-2([B]eq2–x)
=-(k2+k-2)x (∵k2[A]eq2=k-2[B]eq2)=dx/dt
よって、
∫[x1→x](1/x)dx=-(k2+k-2)∫[t1→t]dt
x=x1exp(-(k2+k-2)t)
解説
『dx/dtを積分することでxを得ることができる』と考えることが重要です。
dx/dt=d[A]/dtが成り立つので、順反応と逆反応を考えてd[A]/dtを算出していきます。
[A]+[B]=[A]eq2+[B]eq2
は常に成り立っているので、
[A]=[A]eq+xの時、[B]=[B]eq–xとなります。
また、3.の解説でも記載したように、平衡時では、
k2[A]eq2=k-2[B]eq2
が成り立ちます。
これらの式を用いてd[A]/dt(=dx/dt)を変形すると、
dx/dt=-(k2+k-2)x
が得られ、これを積分すると解答のようになります!
5.
解答
最終平衡に至るまでの時間と新しい条件のもとでの平衡定数を測定することで、速度定数k2及びk-2を別々に求められることが温度ジャンプ法のメリットである。
解説
温度ジャンプ法とは、『急激に温度を変化させて、反応速度がどのように応答するかを調べる方法』のことです。
急に温度上昇すると、組成は新しい平衡組成に向かって指数関数的に緩和します。
式で表すと、4.で算出したように、
x=x1exp(-t/τ) τ=1/(k2+k-2)
となります。
ここでτは緩和時間と呼ばれており、速度定数のみで決まる値です。
同様に、平衡定数K=k2/k-2も速度定数のみで決まる値です。
したがって、τとKを測定することによってk2とk-2を得ることができます!
これが温度ジャンプ法のメリットと言えるでしょう!
最後に
いかがでしたか?
今回は、2024年度入学 東大院試 応用化学科 応用化学専攻の物理化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
コメント
コメント一覧 (2件)
詳しい途中式まで書かれていて、とても参考になります。
素晴らしいものを無料で公開していただき、ありがとうございます。
せみ 様
コメントいただき、ありがとうございます。
東大院試の物理化学は途中式がしばしば求められるので、計算過程(導出過程)も非常に重要になります。
こういった問題は経験がものをいうので、ぜひ実際に手を動かしてこの解答と照らし合わせながら勉強を進めていただけたらと思います!
今後も当ブログをよろしくお願いいたします。