皆さんは、
東京科学大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2024年入学東京科学大の物質理工学院応用化学系の高分子化学の問題解答について、解説していきます!
問題(Ⅰ-4)はこちら(ホームページ)からダウンロードできます。
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!


Ⅰ-4(1)
①
ア ラジカル重合
イ 配位重合
ウ ポリプロピレン
エ 配位重合
オ ポリ塩化ビニル
カ ポリスチレン
キ ラジカル重合
ク ポリ乳酸
ケ 開環重合
解説
まず、プラスチックの生産量の順について、
ポリエチレン > ポリプロピレン (ウ) > ポリ塩化ビニル (オ) > ポリスチレン (カ)
です。
これらは『4大汎用樹脂』とも言われているので、覚えておきましょう!
ポリエチレンについて、問題文にも記載がある通り、その性質から、
LDPEとHDPE
の2種類に分類することが出来ます。
エチレンのラジカル重合では、成長ラジカルが不安定で反応性が高く、連鎖移動反応による水素引き抜きによって分岐鎖が出来ます。
よって、LEPEはラジカル重合(ア)により合成されます。
一方で、配位重合では触媒を用いてエチレンを一定方向から重合させることが出来るので基本的に直鎖となります。
よって、分岐鎖が少ないHDPEは配位重合(イ)により合成されます。
次に、市販されているポリプロピレンは主にイソタクチック体であり、これは配位重合(エ)によって立体制御されているからです。
続いて、ポリ塩化ビニルやポリスチレンは工業的にも比較的容易に重合できる、ラジカル重合(キ)が一般に採用されています。
実際には、塊状重合や懸濁重合といった重合様式でラジカル重合することで合成できます。
リサイクルが最も進むプラスチックとして知られているのがポリ乳酸(ク)であり、ラクチドを開環重合(ケ)することによって合成できます。
②
LEPEの一次構造は分岐構造が多く凝集しにくいため、結晶化度が低い。よって、融点が低く、光が透過してフィルム状態で透明性が高い。一方、HDPEは分岐構造が少なく凝集しやすく、結晶化度が高い。よって、高融点かつ光の散乱により、透明性が低い。
解説
HDPEとLEPEの一次構造は下図のようになっています。

つまり、HDPEは分岐構造が少なく、LEPEは分岐構造が多いです。
これは①でも解説したように、HDPEが配位重合により、LEPEがラジカル重合によって合成されることと関連づいています。
この分岐鎖の数の違いで物性が大きく異なっており、
・HDPE…分岐鎖少ない=凝集しやすい=融点が高い=結晶化度が高い=透明性が低い
・LDPE…分岐鎖多い=凝集しにくい=融点が低い=結晶化度が低い=透明性が高い
というように物性を示します。
③

解説
イソタクチックとシンジオタクチックとは、
・イソタクチック…主鎖の平面ジグザグに対し、置換基が同じ側に配置
・シンジオタクチック…主鎖の平面ジグザグに対し、置換が交互に配置
される立体規則性のことを指します。
なので、実際にそれを図示すると解答のようになります!
Ⅰ-4 (2)
①

解説
AIBNの正式名称は、アゾビスイソブチロニトリルです。
構造式は上図の通りであり、図のように結合が解離して窒素ガスと活性種として2-シアノ-2-プロピルラジカルが発生します!
②・③

A (ス)ラジカル重合
B (シ)重縮合
C (ソ)アニオン重合
D (セ)カチオン重合
解説
A
AIBNは①で示したように、ラジカル重合の開始剤として機能します。

上図のように、開始剤のラジカルが酢酸ビニルの二重結合と反応し、モノマーラジカルが発生します。
そして、得られた活性種がモノマーへ付加することにより、ポリ酢酸ビニルが生成されます。
B
下図のように、ビスフェノールAとジフェニルAのエステル交換によって重合でき、これは重縮合に分類されます。

ちなみに、実際に合成する際にはZn系の触媒を使用して重合します。
C
sec-BuLiはアニオン重合の開始剤として機能します。

上図のように開始剤としてのアニオンがモノマーにアタックして活性種となり、次々と反応することによってポリスチレンが得られます。
D
BF3を用いた開始剤はカチオン重合の開始剤として用いられます。
また、この問題のポイントは『-130℃で重合している』ということです。
3-メチル1-ブテンのカチオン重合について、
-130℃以下:付加反応が遅く、転移が優先
-100℃以上:1,2-付加が優先
となります。
したがって、この問題では下図のように1,2-hydridshiftが起こって重合が起こります。

このような重合を『水素移動重合』と呼びます。
ちなみに、100℃以上で重合が進行すると、下図のようにカチオン重合が進行します。

④
A (ツ)
B (ト)
C (ナ)
D (テ)
解説
A
まず、構造異性について、

置換基Rがついている側を『頭』、置換基Rがついていない側を『尾』と呼びます。
ラジカル重合では、一般にこの置換基R(共鳴安定化など)によってラジカルの安定化が起こり、ほとんど頭側がラジカルとなり、頭-尾結合となります。
しかし、酢酸ビニルのような非共役モノマーを用いる場合、ラジカルの安定化が小さいため、頭側ではなく尾側もラジカルとなり、数%程度の頭-頭結合を含みます。
また、先の問題のLEPEもそうですが、連鎖移動によって枝分かれ構造となります。
B
エステルの縮合反応は有機化学でやったように平衡反応です。
よって、脱離するフェノールを除去することによって平衡を移動させ、高重合体を得ることが出来ます。
C
もともと、リビング重合の歴史として、その起源はスチレンのアニオン重合にあります。
成長末端がカルボアニオンであり、クーロン反発により末端同士の反応が起こりません。
特に制御された条件では副反応が起こりづらいため、リビング重合となり狭い分子量分布のポリマーとなります。
D
カチオン重合では、カルボカチオンの対アニオンなどから成長種のプロトン引き抜き(β-プロトン脱離)が起こりやすいです。
特に、高温ではそのような連鎖移動反応が起こりやすく、低温で重合を進めることが望ましいと言われています。
Ⅰ-4 (3)

解説
E
この反応は『酸化カップリング重合』と呼ばれています。
芳香族化合物間で脱水素を起こすことで重合が進行し、金属触媒を用いて酸素雰囲気下で行う例が多いです。
酸化カップリング重合は特徴的であり、この反応はその代表例なのでぜひ覚えておきましょう!
得られるポリマーはポリフェニレンエーテル(PPE)と呼ばれ、エンジニアリングプラスチックにも使われます。
F
この反応は重縮合のうち、『芳香族求核置換反応』に分類される一例です。
生成物にNaClとSを含む化合物が含まれることから、ハロゲンClの脱離とスルフィドアニオンが用いられることを類推したいです。
一般に、芳香族は求核置換反応が進行しにくく、電子求引性基が必要です。
しかし、スルフィドアニオンは高い求核性を有し、このような求核剤であれば電子求引性基がなくても求核置換反応が進行します。
よって、今回の反応では電子求引性基なしにハロゲンの脱離とともにポリマーが得られることがポイントです。
このポリマーはポリフェニレンスルフィド(PPS)で、同様にエンジニアリングプラスチックとして使用されます。
G
この反応は重縮合のうち、『アシル求核置換重合』に分類される一例です。
最終的に得られるのがポリイミドであり、かつ二段階反応であることから、アミンと酸無水物で重縮合することを考えましょう!
一段階目では、酸無水物とアミンが重縮合してポリアミド酸が得られます。
これを高温条件に晒すと、脱水イミド化が進行して問題に記載されているようなポリイミドとなります。
最後に
いかがでしたか?
今回は、2024年度東京科学大院試の応用化学系の高分子化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!



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