皆さんは、
東京科学大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2023年入学東京科学大の物質理工学院応用化学系の有機化学の問題解答について、解説していきます!
問題(Ⅱ-1)はこちら(ホームページ)からダウンロードできます。
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!



Ⅱ-1(1)
①
D > C > A >B
解説
求核アシル置換反応に対する反応性を考えるには、脱離基の脱離能を考えればよいです!
それぞれの脱離基は、
Aフェノキシドイオン
Bアルコキシドイオン
C,Dカルボキシドイオン
です。
この脱離基の塩基性が低い(=電子を他に与えにくい)ほど、カルボニル炭素はより求電子的になるので反応性が高くなります。
これらのA,B,C,Dの共役酸の酸性度は、
C,D カルボン酸 >A フェノール >B アルコール
であり、CとDの酸性度はDのCF3の電子求引性誘起効果により、Dの方が酸性度が強い酸となります。
したがって、共役酸の酸性度は、
D > C > A > B
です。塩基は共役酸の酸性度が高いほど弱くなるので、脱離基の塩基性度は、
B > A > C > D
の順となり、最初に述べたように脱離基の塩基性が低いほど反応性が高くなるので、解答の順となります。
②
H >F > G > E
解答
酸性度を比較する問題です。
アミドの酸性度を考える際は、基本的にα水素を考えます。
しかし、これは第3級アミドの時の話です。
第1級アミドや第2級アミドでNに結合しているHはα水素と比較すると酸性度は高いです(α水素はCに結合している水素であるため、それほど酸性度が高くありません)
4つの化合物を比較すると、Hのみ第2級アミドで、他の化合物は第3級アミドであることに気が付きます。
したがって、まずHの酸性度が最も高いということが分かります。
続いて、他の3つの化合物の酸性度(α水素の酸性度)を比較していきましょう!
ポイントはα水素が脱離した時(共役塩基)の安定性です。
共役塩基が安定であるほど、酸の酸性度は高いと言えます。
α水素が脱離したとき、Fのみ2つのカルボニル炭素に電子対が非局在化できるので最も安定です。
GとEを比較すると、Gは電子対がベンゼン側に非局在化できるので、Eよりも安定と言えます。
~EとFの比較~
Fは電子対がベンゼンに非局在化して共鳴寄与体を書くことが出来ます。
しかし、ベンゼン側に非局在化した場合、ベンゼンの芳香族性を失う必要があり、決してその共鳴寄与体は安定的ではありません。
したがって、非局在化による安定はそれほど大きくなく、Eの方が安定度が高いと言えます。
以上より、酸性度をまとめると解答のようになります!
③
L > J > K > I
解説
複素環化合物の塩基性に関する問題です。
塩基性を考えるので、まず共役酸の安定性を考えましょう!
この中で、Iのみが共役酸となると芳香族性を失うことが分かります(Nの孤立電子対がπ電子雲の一部)。
したがって、Iは共役酸が最も不安定なので、Iの塩基性が最も弱いことが分かります。
続いて、塩基性を考えるポイントはs性です。
混成軌道を用いた酸性度の比較についてはこちらの記事で解説いたしました。

詳しくはこちらの記事を見ていただきたいですが、結論から言うと混成軌道のs性が低い方が塩基性が低くなります。
J,KのNはsp2混成軌道、LのNはsp3混成軌道であり、後者の方がs性が低いのでLが最も塩基性が高いと言えます。
最後にJとKの塩基性を比較しましょう。
ポイントはNの電子求引性です。
JとKの違いはNの数ですが、Nは電子求引性を有します。
したがって、Kは他方の窒素のNの電子を求引するので、塩基性はNが1つの場合よりも低下します。
すなわち、Jの方がKよりも塩基性が高いです。
以上より、塩基性の順番をまとめると解答のようになります!
Ⅱ-1(2)
①
O3
解説
炭素数が減っていること及び二重結合が消えてケトンになっていることからオゾン分解を想像しましょう!
反応物をオゾン分解することで、問題の化合物2とホルムアルデヒドが生成されます。
ちなみに、オゾン分解ではO3とジメチルスルフィド(CH3)2Sを反応剤として用いることが多いですが、(CH3)2Sの代わりに亜鉛+酸を用いることも出来ます。
ジメチルスルフィドや亜鉛+酸は反応中間体であるオゾニドをケトンやアルデヒドに変換する効果を持っています。
②

解説
N
H2O.H2SO4,HgSO4の反応剤の組み合わせを見たら、アルキンの水和反応を思い出しましょう!

上記のように、アルキンに対して水が付加してエノールが生成し、これがケト-エノール互変異性によってケトンになります。
また、もう一方向の反応からでもアルキンであることを決定出来ます。

上記のように、まずNaNH2は末端アルキンからプロトンを引き抜いてアセチリドイオンを生成することが出来ます。
ここにハロゲン化アルキルを加えることでアルキル化されます。
最後に、H2,Pd/Cでアルキンを還元することにより、目的物を得ることが出来ます。
O
Grignard反応に関する問題です。
Grignard反応剤は求核性が高いため、様々なカルボニル化合物と反応します。
したがって、一見するとエステルなどのカルボニル化合物も解答として妥当に見えるかもしれません。
しかし、エステルのようなケトンよりも反応性が低い化合物であると、生成したケトンが選択的にGrignard反応剤と反応して、アルコールとなってしまいます。
つまり、ポイントは原料となるカルボニル化合物がケトンよりも反応性が高いことです。
ケトンよりも反応性が高い化合物として塩化アシルがあり、これと1当量のGrignard反応剤と反応させることでケトンを生成物として得ることが出来ます。
③

解説
アセタールの加水分解反応です。
アセタールに酸触媒が存在すると、上記のような電子の流れで反応が進行してケトンに戻ります。
Ⅱ-1(3)
①

解説
P
α炭素の反応です。
生成物はα炭素をアルキル化すれば得ることが出来ます。
2)の試薬がMeIであることから、1)でα水素を引き抜く試薬を用いればよいです。
α水素を引き抜く試薬の代表がLDAであり、これを用いることにより反応を進行させることが出来ます!
今回の問題のポイントは構造式で書く必要があることで、LDAがリチウムジイソプロピルアミドの略語であることを覚えておくことが必要ですね。
Q
α,β-不飽和カルボニル化合物に関する問題です。
α,β-不飽和カルボニル化合物は求核性の性質やカルボニル化合物の構造により、直接付加と共役付加のどちらかが進行します。
一般的に、
直接付加…強塩基(ヒドリドイオンやカルボニルアニオン等)を用いると進行。1,2-付加と呼ばれる。
共役付加…弱塩基(ハロゲン化物イオンやGilman反応剤等)を用いると進行。1,4-付加と呼ばれる。
となります。
今回の場合、共役付加によるアルキル化を進行させたいので、試薬Qとして有機銅アート反応剤(Gilman反応剤)を選択しましょう!
②

解説
LiとNH3が反応剤として用いられていることから、Birch還元であると考えましょう。
Birch還元は以下の反応機構で進行します。

まず、Liのs軌道の1電子と反応物が反応して、ラジカルアニオンが生成し、更にLiの1電子が反応することでジアニオンが生成します。
Birch還元は一般に溶媒としてアルコールが用いられるので、アルコールからプロトンがとられて問題の中間体Rとなります。
この中間体Rは上記のように非局在化できるので、中間体としては比較的安定に存在します。
そして、中間体Rのアニオンとヨウ化メチルが反応することにより、生成物となります。
③

解説
α置換反応(α炭素のハロゲン化)に関する問題です。
ケトンに臭素を加えると、上記のように反応が進行します。
塩基触媒の場合は全てのα水素が置換されますが、今回は酸触媒を用いているため、α水素の1つのみが臭素化されます。
ちなみに、引き抜かれるα水素がメチル基がついている側なのは、生成するエノラートイオンがより置換基の多い二重結合のため、熱力学的に安定だからです。
最後に
いかがでしたか?
今回は、2022年度東京科学大院試の応用化学系の有機化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!



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