皆さんは、
東京科学大院試に向けて過去問を解いているけど、難しい!
過去問の解答が欲しい!
と思っていませんか?
この記事では、2024年入学東京科学大の物質理工学院材料系の無機化学の問題解答について、解説していきます!
問題(Ⅰ-6)はこちら(ホームページ)からダウンロードできます。
ぜひ、問題を解いてから読んでみてください!
こちらの解答は正式なものではなく、筆者が出した解答ですのでその点には十分注意してお読みください!


Ⅰ-6(1)
ブレンステッド・ローリーの定義
プロトンを供与するものをブレンステッド酸、プロトンを受容するものをブレンステッド塩基とする。
ルイスの定義
電子対受容体として作用するものをルイス酸、電子対供与体として作用するものをルイス塩基とする。
解説
酸・塩基の定義は主に以下の3つあります。
アレニウスの定義
酸:水溶液中でH3O+を放出する化学種
塩基:水溶液中でOH–を放出する化学種
ブレンステッド・ローリーの定義
酸:H+を他の物質に供給する化学種
塩基:H+を他の物質から受容する化学種
ルイスの定義
酸:電子対を他の物質から受容する化学種
塩基:電子対を他の物質に供給する化学種
化学を学んでいる人なら必ず覚えておきたい知識です!
必ず定義を言えるようにしましょう!
Ⅰ-6(2)
①
H3PO4 > H2PO4– > HPO42-
負電荷が大きいほど水素との電気的引力が大きくなり、プロトンが放出されづらくなるため。
解説
例えば、H2SO4は第一電離より第二電離の方が電離が起こりにくいというのは知っていますよね。
リン酸でも同様で、電離度がだんだん小さくなります。
これは、H+が放出されていくと対イオンとなる化学種が負電荷を帯びます。
よって、電離をしていくとHとの間でクーロン力が働き、プロトンが放出されづらくなるので、多段階電離ほど起こりにくくなると言えます。
②
KOH > NaOH >LiOH
イオン半径が大きいほど電気的引力が低下してOH–の電子密度が高くなり、電子対を供給する能力が高くなるため。
解説
アルカリ金属の塩基性の強弱を比較する問題です。
アルカリ金属のイオン半径は、周期表の下側ほど大きくなるので、
K > Na >Li
の順となります。
電気的引力(クーロン力)は電荷の距離と反比例するので、クーロン力は、
Li-OH > Na-OH >K-OH
の順となります。
クーロン力が小さいほどOH-の電子密度は高くなり、ルイスの定義より、塩基性=電子対を供給する能力のことなので、
イオン半径が大きい = クーロン力が小さい =OH-の電荷密度が高い =塩基性が高い
が成り立つことになります。
補足として、
クーロン力が小さい=OH–が放出されやすい
と書きたくなりますが、一般にアルカリ金属の水酸化物は完全電離するので「OH-が放出されやすい」と書くのはあまり良い解答ではないのかなと考えました。
③
SiF4 > SiCl4 > SiBr4 > SiI4
ハロゲンの電気陰性度が強いほど、Siの電子が欠乏して電子対を受容しやすくなるため。
解説
ルイス酸の強弱を比較する問題です。
ハロゲンの電気陰性度は、
F > Cl > Br > I
の順となります。
ここで、Siは超原子価化合物をつくることができ、例えばSiF4は2つのF–と以下のように反応します。

つまり、Siは電子対を受容するルイス酸として機能します。
ハロゲンの電気陰性度が強いとSiは電子欠乏となるので、より強いルイス酸になります。
したがって、ルイス酸の強さは、
SiF4 > SiCl4 > SiBr4 > SiI4
の順となります。
Ⅰ-6(3)
①
${K_{a1}} = \frac{{[{H_3}{O^ + }][HS{O_4}^ – ]}}{{[{H_2}S{O_4}]}}$
${K_{a2}} = \frac{{[{H_3}{O^ + }][S{O_4}^{2 – }]}}{{[HS{O_4}^ – ]}}$
解説
高校化学でも平衡定数は沢山出てくるので、この問題は解けるかなと思います!
②
$0.0123\,mol{L^{ – 1}}$
解説
高校化学でもやると思いますが、平衡の問題では物質収支を書くことがポイントです。
問題文に従い、第一電離と第二電離の物質収支を書くと以下のようになります。

したがって、
${K_{a2}} = \frac{{[{H_3}{O^ + }][S{O_4}^{2 – }]}}{{[HS{O_4}^ – ]}} = \frac{{0.211 \times 0.011}}{{0.189}}$
≒$0.0123\,mol{L^{ – 1}}$
となります。
Ⅰ-6(4)
①
高スピン状態:t2g4eg2
低スピン状態:t2g6
解説
2つの電子配置が考えられる場合、
不対電子数が多い方を高スピン状態
不対電子対が少ない方を低スピン状態
と呼びます。
まず、正八面体錯体は下図のように、3本の軌道が縮重した低エネルギーのt2g軌道と、2本の軌道が縮重した高エネルギーのeg軌道にd軌道が分裂します。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

高スピン状態となるのは、
スピン対をできる限り作らずに各軌道に電子が配置されている状態
です。
一方で、低スピン状態となるのは、
スピン対が出来てもいいのでとにかく低エネルギーのt2g軌道に電子が配置されている状態
です。
したがって、d6の高スピン状態と低スピン状態は下図のようになります。

,
②
配位子場安定化エネルギーをΔo、スピン対生成エネルギーをPとすると、
高スピン状態:$4 \times ( – 0.4{\Delta _o}) + 2 \times 0.6{\Delta _o} = – 0.4{\Delta _o}$
低スピン状態:$6 \times ( – 0.4{\Delta _o}) + 2P = – 2.4{\Delta _o} + 2P$
である。
よって、$ – 2.4{\Delta _o} + 2P > – 0.4{\Delta _o}$、つまり$P > 1.0{\Delta _o}$の時、高スピン状態が低スピン状態に比べ安定となる。
解説
配位子場安定化エネルギー(LFSE)に関する問題です。
以下の図のように、eg軌道とt2g軌道に分裂するとき、eg軌道とt2g軌道のエネルギー差を配位子場分裂パラメーターと呼び、Δoで表現します。

この時、重心からeg軌道は0.6Δoだけエネルギーが高くなり、t2g軌道は0.4Δoだけエネルギーが低くなります。
この各軌道を錯体の電子が占有した時、錯体のエネルギーが重心のエネルギーと比較した安定化を配位子場安定化エネルギー(LFSE)と呼びます。
これを用いると各スピン状態におけるLFSEを計算することが出来ます。
ただし、これだけではなくスピン対も考慮する必要があります。
スピン対は当然電子的な反発となるので不安定側のエネルギーとなり、このエネルギーはスピン対生成エネルギーと呼び、Pで表します。
このスピン対生成エネルギーは、
『自由イオン(d軌道が分裂していない状態)でのスピン対の数と比較して、スピン対がある時』
にLFSEに換算することに注意しましょう!
つまり、d6の場合5本のd軌道に電子を入れていくと、1つのスピン対が生じます。
よって、
高スピン状態は1つのスピン対なので、LFSEにPを換算せず、
低スピン状態は3つのスピン対なので、LFSEに2P 分換算する必要があります。
なので、解答のように各LFSEは、
高スピン状態:$4 \times ( – 0.4{\Delta _o}) + 2 \times 0.6{\Delta _o} = – 0.4{\Delta _o}$
低スピン状態:$6 \times ( – 0.4{\Delta _o}) + 2P = – 2.4{\Delta _o} + 2P$
となり、
$ – 2.4{\Delta _o} + 2P > – 0.4{\Delta _o}$、つまり$P > 1.0{\Delta _o}$
の時、高スピン状態が低スピン状態に比べ安定となります!
③
高スピン状態:$4.89\,{\mu _B}$
低スピン状態:$0$
解説
磁気モーメントは不対電子の数で決まります。
全スピン量子数を$S$とすると、有効磁気モーメントは、
$\mu = 2\sqrt {S\left( {S + 1} \right)} {\mu _B}$
です。
①より、高スピン状態の不対電子の数は4であり、
ここで不対電子対の数を$N$とすると$S = \frac{1}{2}N = \frac{1}{2} \times 4 = 2$なので、
$\mu = 2\sqrt {S\left( {S + 1} \right)} {\mu _B} = 2\sqrt {2 \times 3} = 2 \times 1.41 \times 1.73$
≒$4.89$
となります。
また、低スピン状態の不対電子の数は0なので、有効磁気モーメントも0です。
④
高スピン状態
理由:高スピン状態では歪みが生じると、2つに分裂したt2g軌道の低エネルギー側に3つの電子が入り安定化するが、低スピン状態ではt2g軌道が閉殻であるため歪みによる安定化が起こらないため。
解説
正方歪みに関する問題です。
正方歪みに関してはこちら記事で解説しています。

記事の抜粋をすると、
正方歪みとは、下図のようにある1つの軸(ここではz軸)上に存在する配位子の距離が遠ざかった状態のことです。

この正方歪みにより、z軸付近に電子を有するd軌道(下付きにzを含む軌道)のエネルギーが低下します。
つまり、dyz、dzx、dz2軌道のエネルギーが低下し、相対的に不安定となるdxy軌道とdx2-y2軌道のエネルギーが上昇します。
したがって、正八面体錯体のエネルギー図から変化させると下図のようになります。

これをd6に当てはめると、下図のようになります。
高スピン状態では、t2g軌道に電子が4つ入っており、低エネルギー側に3本の電子が入ることになります。
したがって、この部分に対して先ほどのようにLFSEを考えると、
$ – 3 \times \frac{1}{3}\Delta + \frac{2}{3}\Delta = – \frac{1}{3}\Delta $
だけ安定化します。
したがって、正方歪みが起こると考えられます。

一方で、低スピン状態では閉殻になっているので、正方歪みによるエネルギーの安定化を得ることが出来ません。
したがって、高スピン状態のみ歪みを生じることがあると考えられます。
最後に
いかがでしたか?
今回は、2024年度東京科学大院試の材料系の無機化学の問題について解説してきました。
今後も過去問の解説をどんどんしていきますので、ぜひ参考にしてみてくださいね!



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